高知レポ
1日目
高知に行ってきた。
発端は、拙作『サムライせんせい』の一巻が発売された当初、高知のご当地アイドル『土佐おもてなし勤王党』の皆さんがブログで紹介してくださった事にある。まさかこんなに取り上げてくださるとは思っても見なかった私は、2巻が発売されたらこの手で皆さんに本をお届けしたいと密かに考えていた。
そしてこの時期、ちょうど武市半平太とその弟子岡田以蔵が没後150年という事で、龍馬記念館で企画展も開催されている、という事で、兼ねてから「どっか旅に出たいね」と話していた助っ人のHさんを誘い、ただの旅行のつもりで準備していた。
しかし急遽担当さんも加わって、結構本格的な取材旅行になる事に。
確かに勝手に高知旅行に行って、もて勤(※おもてなし勤王党)の皆さんに本を渡せる機会があるとも思えない。ならアポ取りをリブレさんにお任せしようという事になると、じゃあいっその事アレもこれもと担当さんはどんどこ予定を勝手に埋めていってくれた。
今回の目的はまず、前述どおり、桂浜龍馬記念館で武市半平太・以蔵の没後150年記念展に行くこと。
高知のご当地アイドルおもてなし勤王党へのご挨拶。
武市先生の生家訪問及びお墓参り。
高知新聞によるインタビュー。
土佐の偉人研究家・作家の松岡司先生へのご挨拶。
高知広告センターへのご挨拶。
アニメイト高知へのご挨拶。
などと盛りだくさんだ。すべて遂行できるかどうか不安がよぎる。と言うのも出発前、ドラマの事やらマンガの今後の展開の事やらで私自身いっちょ前にてんやわんやになってしまい、バタバタしてる中での旅だったので、初対面の人々ときちんと接する事が出来るか心配だったのだ。しかしそれは後に杞憂だったとわかる。
待ち合わせは現地集合。私は大阪なので、新幹線で岡山まで行き、そこから南風号に乗り換えてJR高知駅へ。担当さんとアシHさんは東京から飛行機で高知龍馬空港へ直通。
南風号は景色の良い場所を車内アナウンスしてくれる素敵な列車で実際窓から見える渓谷は見事なものだった。
ちなみに高知へは過去3回訪れているが、いずれも某北海道のバラエティ番組で『地獄の深夜バス』と名高い『よさこい号』を利用させて貰っていた。しかしこのバスは5:30など早朝に付く為、一人で乗るには非常に時間をもてあます。しかし何より安いので、値段重視と早朝に着いても構わない方にはおすすめ。
JR高知駅構内にて二人と合流。巨大な龍馬とおりょうさんのパネルが設置されてあり、高知感満載の駅構内だ。
二人と合流するもHさんがなにやら浮かない顔をしている。訳を聞いてみると
「ヘアアイロンの電源入れたまま出てきちゃった・・・」
いつかやると思っていた。この人はいつもこんな調子で、仕事はバリバリ出来るのに、やれ窓を開けっ放しで出てきたり、玄関を施錠せずに寝てしまったりとおおざっぱな部分がある。とりあえず、管理会社の人に連絡して部屋に入って貰いスイッチを切ってもらうことで無事に事なきを得た。
ちなみに部屋はちらかり放題で、同人誌やらBL本やらもほっぽり出してきたとの事。
皆さんも旅に出る際はくれぐれも指差し確認を怠らないようにご注意下さい。
▲とさてらす
▲三志士像
さて、高知駅を一歩出ると暑い。東京や大阪より太陽が近く感じる。ヤシの木のような街路樹が植わっているのが、南国感に拍車を掛けている。
高知駅を出るとすぐそこに路面電車の駅がある。まず龍馬記念館に行くため路面電車ではりまや橋まで行き、そこからバスに乗らなければいけない。
とりあえず、路面電車とバスの一日乗車券が販売されているので、それを買うために『とさてらす』へ。『とさてらす』は高知駅のすぐそばにある観光案内所兼・お土産屋さん兼・高知の文化の展示場と言った感じ。木造で新しく粋な建物である。その他色々見所があるのだがそれはまた後ほど。
すぐそばには武市半平太・坂本龍馬・中岡慎太郎の巨大な像も建てられている。
何の気無しに観光案内看板を眺めていると『なにかお困りですか?』とさわやかボイスと共にもて勤メンバーの以蔵さんが顔を出した。私と担当さんは内心まさかしょっぱなから以蔵さんに会えるとは思っていなかった為、テンション爆上げ状態になるが、この方とは明日きちんと挨拶の場を設けて頂いているので、その場では何も言わずに観光案内をして頂く。
ここで言う『以蔵さん』についても詳しくは後ほど。
とさてらすを出た我々は早速路面電車を使って、まずひろめ市場に昼食の買出しに行った。
高知に来ると毎回ここで食事をするのが定番となっているひろめ市場は沢山のご飯屋さんが出展しており、買ったものを各々確保したテーブルで食べるフードコート形式のご飯屋さんである。
かつおのタタキだの中トロの寿司だのがお手ごろ価格で並び、アレもコレも食べたいが、ひとまず夜の楽しみの為我慢。
のんきに出店を見て回りながら巨大な串刺しのから揚げと鯛飯を購入。「バスの中で食べよっか?」「におい大丈夫かな?」「それより酔うかもしれないよ、山の中走るし~w」などと浮かれつつ商店街を見物しつつバス乗り場に行く。私がのんきにブラつきすぎた為、お約束のようにバスに乗り遅れる。
次に来るのはおよそ一時間後。金より時間が惜しいという事でタクシーを選択。一日乗車券が早くも無駄になる予感がぷんぷんしたがそれは自業自得なので黙っておく。
この運転手さんがまた親切な方で、龍馬記念館のあと、また迎えに来て吹井の武市先生生家に行って上げるよとの事。途中長宗我部元親の像にも寄ってくれた。異様にイケメンポーズの長宗我部氏を眺め、写真を撮る。見学記念ノートなども用意されていたがなぜかぐっしょりと湿っていたのが印象的だった。
▲長宗我部元親 像
▲長宗我部元親 像
▲桂浜
そして橋越え山越え龍馬記念館前に到着。
入る前に桂浜にて食事をしようと浜辺に向かうが、何せ記念館は山の上にあるので、桂浜まで結構な距離の山道を下らなければならない。私とHさんは動きやすいスニーカーとブーツだが、担当さんはワンピースにハイヒールである。どこに行くにもそのスタイルを崩さない担当さんに感動すら覚える。
汗だくになりつつ何とか海の近くまで行き、遊泳禁止な程高い波の桂浜を眺めながらの食事は絶景だった。
すぐ近くに例の高知のシンボルとも言うべき巨大な龍馬像があり、おばちゃんが売り子をしているアイスクリンを舐めつつ見物した。ちなみにこの像は、龍馬のもので一番有名な立ち姿の写真を参考にして作られている。
やっとこさ龍馬記念館に入場。
常設展は主に手紙の複製を中心に展示されており、龍馬が近江屋で暗殺された際、そばにあった血痕の残る掛け軸や屏風のレプリカなども見ることが出来る。基本的に特別展などで無い限り、本物の手紙が出されることはないとの事。
龍馬の手紙は姉の乙女さんへの手紙が一番多く残されているが、文末に「この手紙は姉ちゃんだけが読むこと。他の誰にも見せないで」「この手紙は姉ちゃんと姉ちゃんの仲良い人になら見せてもいいよ」などといちいち公開範囲を指定しているのがなんとも可愛らしい印象。しかし150年後、こんな風にだれかれ構わず公開されまくっているとは夢にも思わなかっただろうな。
次に目的の武市半平太と以蔵展へ。武市半平太の生い立ちから終わりまで。そして岡田以蔵の始まりから終わりまでが記されている。こちらも基本手紙と当時の公的な文書を中心に展示。その中でも目玉は、以蔵の物とされるフランス製のこのピストル。
どこから伝わったものかは不明だが、恐らく勝海舟あたりから譲り受けたものだろうと記念館側は推測している様子。
この企画展で持った印象はいずれ漫画本編の方に生かせればと思い、割愛するが、改めて、感じた事、考えさせられた事が沢山あった。
また、当時、京都所司代に以蔵の日記が没収されていたとの記述を発見。
そのまま日記は土佐側に渡る事なくうやむやになってしまったらしいが、以蔵がどんな日記をつけていたのかとても気になる。以蔵は写真はおろか、手紙もちょっとしたメモすらも残っていない。そこがミステリアスで良いといえば良いのだが、少しでも人柄がわかる何かがこの先発見されないかと期待する。
同じ階は初心者やお子さん向けのコーナーも充実しており、龍馬や龍馬関連の偉人達を簡単に映像で紹介したり、アニメ版「お~い!龍馬」を視聴できるサービスがある。
また龍馬が暗殺された当時の近江屋を再現したレプリカもあり、私とHさんは漫画の今後の展開の為に、龍馬暗殺のシミュレーションをわりと真剣にやってみる事にした。比較的お客さんは少なかったものの、ハタから見ると完全に痛いオタク女二人だった。
記念館を出た我々は先ほどのタクシーで次は武市半平太生家へ向かう。
車で15分ほど走ると、そこはもう山と田んぼに囲まれた田舎町で、コンクリートジャングルに生息する我々3匹にとって心が洗われるような景色が広がっている。
そんな中を旧武市邸がぽつんと佇む。
余談だが『サムライせんせい』の町はこの吹井を中心に色んな田舎町や地方都市をモデルにさせて頂いている架空の町である。
いざ、お宅へと向かう。私が話し忘れていたのか、担当さんとHさんはこの家が武市家とは関係のないご家族が普通に暮らしているとは露とも思わなかったらしく、口々に「入っていいの?!」「だって普通の家なんでしょ?!」「迷惑じゃないの?!」と言い出す。
私はこちらにお邪魔するのは2度目で、1度目は隣の畑にいたご主人が「どーぞ自由に見てって~!」と気さくに声を掛けてくださったので、今回も大丈夫だと気軽に思っていた。
が、今回はその気さくなご主人が畑にいらっしゃる気配がない。
とりあえず「ごめんください」と何度か声を掛けてみる。ようやく小学生くらいのお嬢さんが顔を出される。担当さんはあたふたと漫画を出し「これこれこういうものを書いていて、取材でお庭に入らせて頂いて写真を撮らせていただいたり・・・」と説明する。お嬢さんは「??」という顔をしながらも「大丈夫です。どうぞ」と仰ってくださった。いきなり妙な女が3人やってきて、変な漫画を見せられても確かに「??」という反応をする他無かっただろうと思う。
見学の許可を頂いた我々はひっそりと散策させて頂く事にした。武市邸は裕福であったとの伝えどおり、かなり大きく立派なお屋敷である。母屋?の方が多少手が入れられているらしいが、恐らくほぼ当時のままではないかと思わせる趣があった。
▲武市半平太旧宅
▲武市半平太旧宅
▲武市半平太旧宅
この雄大な自然に囲まれた大きな家で育った武市半平太はどんな少年だったのだろうかと想像するだけでワクワクする。この広い中庭で竹刀や木刀を振ったり相撲を取ったりしていたのだろうか。
我々は武市邸を後にし、すぐ隣にある、瑞山神社と瑞山記念館に向かう。
武市半平太の号は授けられたこの施設は無人の記念館で、ヒノキ作りの綺麗で良い匂いのする建物である。
詳細に武市半平太の生涯が記されており、天井から下がったスイッチのヒモを引くと音声解説のサービスもある。
建物から神社のお社が繋がっており、直接お参りする事が可能。こちらには今年5月に発行された『武市半平太没後百五十年記念誌』と可愛いヒノキ造りのコースターも数種類販売されている。
記念誌は以前取り寄せていたので、今回はコースターを購入。
担当さんはコースターを2種類買ったのだが後になって「なんで2種類買っちゃったんだろう」と不思議がっていた。そんなん知らんがなと思ったが黙っておいた。
そして記念館を出て、奥の石造りの階段を上がると、そこには武市家代々の墓所がある。
非常に静かでひっそりとしている。
墓所が好きと言ってしまうと御幣があるが、やはり歴史上の偉人を知る上で、その方のお墓を参るという行為は真っ先にするべき事のひとつであると私は思う。
私ごとき漫画描きが武市半平太という人物を題材に作品を描くなど恐れ多い事だとは十分に承知しているが、やはり最低限の『ご報告』をさせて頂く事は今後も欠かすことは無いと思う。
武市先生の隣には寄り添うように富さんのお墓が並んでいる。
用を済ませた我々は待ってもらっていたタクシーに乗り込み、帰路に付きがてら薫的神社に行く事にした。龍馬記念館で、この神社の一角に平井収二郎、島村衛吉、岡田以蔵など土佐勤王党の党員が収容されていた旧山田町にあった山田獄舎の一部が移築されていると知り、見てみたくなったのだ。
獄舎は想像通りの建物であったが、説明文を見てみると、コレは旧山田町から移築してきたものであると同時に、この神社で祭ってある神様の『薫的さん』が入牢していたお牢でもあると書かれている。「??」と思った私は、若い管理人さんに尋ねてみると「そこはまあ神話って事でね、色々、まあとりあえずそうなってるって事で」と大人の事情がある様子だったので、それ以上考えるのをやめた。
▲幕末志士社中
少し時間があったのでギリギリで『とさてらす』横に常設されている『幕末志士社中』を見学することにする。ここはNHK大河ドラマ『龍馬伝』の坂本邸のセットを丸ごと移築したもので、中に入り自由に見る事が出来、役者さんが着用していた衣装の展示もある。細かい部分もこだわって作られており、特に坂本家の家紋の桔梗をあしらった壁の飾りが綺麗で可愛かったが、画面に写ることはほとんど無かったらしい。
▲幕末志士社中
▲幕末志士社中
▲幕末志士社中
その後夕食を取るため再びひろめ市場に向かうことにした。いつも混み合うひろめ市場だが、今はシーズンの時期も微妙にずれているし、まあ大丈夫だろうと高をくくっていた、が、いざ到着してみると現実は甘くはなかった。なにせフードコート形式である。待っていたら自動的に案内されるというものではないのだ。まずは食料を買う前にこの椅子取りゲームに勝利しなければならない。現にシステムを理解していなかったらしいカップルがかつおのタタキ定食の盆を持ちながら呆然と佇んでいる。
立ちながらムシャムシャやる羽目にならないよう、3人散らばって席を探す。空いていなければ空きそうなグループを狙う。狙い目は酒を飲まず、なおかつ小さい子がいる家族連れだとHさんが熱く語る。15分後に空いていなければ合流することにして広大なひろめ市場を散策する。
15分後席を見つけられないまま待ち合わせ場所に行くとHさんががっくりうなだれていた。めぼしをつけた家族連れを影から見守っていたが、さあどくぞ、と言うときに強引なカップルの割り込みにあったらしい。椅子取りゲームなのだから割り込みも反則も無いのだが、こういう場合は多少の厚かましさが無ければ勝てないのだと悟った。
それからも一向に空く気配が無いため、我々はすごすごとひろめ市場を後にする事にした。代わりに、担当さんが高知の友人から聞いた評判のカツオの店に行ってみようという事になったが、そこももう予約で満席だった。気が付くとあんなに晴れていたのにシトシトと雨が降ってきている。空腹を抱えたまま、惨めに食事にありつけない夜を過ごすのかと思ったが、何とか席があるらしいカツオの名店の噂を聞きつけ、タクシーで直行した。
その店もほぼ埋まっており、手が回らないから席に座れたものの、注文までにとても時間が掛かった。ようやく一通り注文し、やっとでありついた食事は天国の美味さだった。
カツオの塩たたきは肉厚で大きく、初めて食べる土佐巻も鯨料理もすべてが美味しかった。
美味しいものをたらふく頂き、可愛いおみやげ物屋でアイスクリームやおやつを買い込み、ホテルに帰る。ホテルの冷蔵庫にアイスを仕舞い、私とHさんはプランに含まれていた温泉に向かう事にした。温泉は『三翠園』といういかにもハイクラスな和風ホテルの中にあり、曲がりくねった道を少々歩いたが、素晴らしい露天風呂だった。あいにくの曇りだったが、晴れていたら夜空が綺麗だろうなと思った。
翌日になって気づくが、ここは旧山内容堂の隠居に作られたホテルであり、どおりで門や塀が趣があり立派だったはずだとわかった。
帰ってうだうだしながら、Hさんは文旦の、私は土佐のイチゴを使ったアイスクリームを食べた。あくまでも冷蔵庫に入れていたため、どろどろに溶けていたのは言うまでもない。