高知レポ

2日目

朝、定刻どおりに起きた私とHさんは、楽しみにしていたホテルの朝食ビュッフェに早速向かった。食事は中々豪華で和洋折衷と揃っており、その上高知の地元限定のヨーグルトやら牛乳やら納豆などもあり、非常に満足した。惜しむらくは食堂が小さい窓があるだけの宴会場だった訳だが、高知城を眺めながら食事できたらいくらか良かっただろうなあと思った。
私達は「昨日の夜はアイスクリームといもけんぴを食べながら寝落ちしたが、当然歯を磨いていなかったので、夜中にタタキと共に食べたにんにくのおかげで自分の口の臭さで目が覚めて慌てて歯を磨きに行ったよ」「偶然だね、私も同じ」などと非常にくだらない話をしながら食事を終えた。

2日目の予定はまず朝一で高知新聞社のM記者による取材を受ける事になっていた。ホテルのロビーまで記者さんが来てくれるというので、約束の時間に向かうが、担当さんがぽつんといるだけである。担当さんはなぜかマスクをしており、おもむろにメモを取り出すと「風邪なのかなんなのかわからないけど、全く声が出ないんです」と書いた。風邪か知らんが、なんて風邪に決まっている。大丈夫なのか、無理せずに寝ていた方がいいんじゃないのかと心配したが、「行きます。編集者としての責任がありますから!」と筆談で熱弁する。しかし言ってるそばから担当さんのスマホが鳴り、担当さんは当然の様に私に手渡し「お前が応対しろ」と身振りで伝えてきた。
「この人・・・」と思いつつ、どうやらホテルを間違えていたらしいM記者と何とか高知駅での待ち合わせのアポを取った。今日一日、私が担当さんがするべき職務などすべて全うする訳だが、コレでは何の為に担当さんが来たのかわからない。

さて取材である。多分、人が普通に生きてきて、新聞記者からインタビューを受けるなんて、なにかのモニターか、街頭インタビューで一度あるかないかだと思う。私もそうだった。
私に聞きたいことと言われても正直何をどう答えて良いのかわからない。漫画の事を聞かれても、設定とか裏話とかを話すのが非常に苦手なのだ。「実はあれはこうで~」などとしたり顔でロクロを回しながら答えるなんて非常に滑稽に感じる。
とにかくカッコつけたりせず、ありのまま答えようと、目の前の、非常に目が美しいM記者と向き合った。この様子は10月4日付けの高知新聞に結構な大きさを割いて載せて頂いている。結構時間が経ってしまっているが、機会があれば私のブサイクな後姿と共にご覧頂ければと思う。

ステージショー
▲ステージショー

その後、高知駅前広場で毎週土日に開催されている土佐おもてなし勤王党のステージショーを観た。土佐おもてなし勤王党とは、およそ150年の時を経て現代に蘇った高知の偉人達がアイドルをしつつ、高知への観光を誘致する、というコンセプトを元に結成されたご当地アイドルである。
もて勤のステージは、地方のご当地モノと侮るなかれ、とても完成度の高い素晴らしいクオリティのショーなのだ。まず一人づつの紹介から始まり、MC、歌にダンスにそつなくこなしていくもて勤の皆さんにプロを感じた。プロだから当然なのだが、コレを一日3回土日に無料で観覧できるというのもすごい。おまけに皆さんは普段、一日目に紹介した「とさてらす」にも普通に観光案内人として点在している。すぐに会えるアイドルとしてファンもとても多い。

黒江S介先生によるイラスト
▲黒江S介先生によるイラスト

写真を元に描かせて頂いたメンバーのイラスト(私の絵で申し訳ない)
向かって左上、岡田以蔵さん:長身モデル体系のさわやかイケメン。今年4月に脱藩した武市先生をずっと慕い続けている。
向かって左下、岩崎弥太郎さん:金にがめつい。いつもそろばんを持っている。隠れイケメン
中央、坂本龍馬さん:この方は二代目龍馬さん。実在の龍馬にそっくりなのにイケメンと言う奇跡の人。
向かって右上、中岡慎太郎さん:薔薇が似合うナルシストキャラ。大泉洋に激似のイケメン。
向かって右下、瓦版屋りょうさん:謎に包まれたみんなのまとめ役。紅一点。かわいらしい容姿にものすごくかわいらしい声が素晴らしい。口上が最高。
丸の中の人、武市半平太先生:残念ながら今は脱藩して武者修行中との事。こんなに武市半平太っぽい人地球上どこを探してもいないと思う理想の武市先生。異常な男前。

「この人も舞台に立った方がいいんじゃないか」と思うほどやけにイケメンのJマネージャーに案内され、休憩時間にもて勤さんの楽屋を訪問させて頂ける事になった。もて勤さんは快く歓迎してくださり、様々なお話をさせて頂いた。
もて勤さんのコンセプトは『幕末の志士が現代に蘇った』というものなので、当然幕末の志士としてお話させて頂かなければならない。「プライベートな部分はもちろんNGで」とイケメンJマネージャーに言い渡されていたので、さて何をどう聞けばいいかな、なんて考えていたが、問題なく進行し、最後は皆さんの似顔絵を入れた単行本をお渡しさせて頂いた。
以前よりもて勤さんのひそかなファンを続けさせて頂いていたが、直接お会いする事によってますます好きになった。よく、興味がなかった芸能人でも生で見るとファンになったという話をよく聞くが、私の場合元から好きだったのだから、より好きになるのは当然といえば当然である。
もて勤グッズのお土産まで頂き、我々はその場を後にした。ちなみに担当さんは「聞きたいことの半分も聞けなかった」と嘆いていた。知らんがな。

ちなみにJマネージャー個人にもファンが付いているらしい。ステージを観る機会があったら周辺を探してみると良いと思う。たぶん「ああ、あの人だ」とすぐにわかる。

日曜市のおじさん
▲日曜市のおじさん

次の用事まで少し時間が空いたので、日曜市に行ってみる事にした。
日曜市は名前の通り、日曜日に路上で開かれている市場であり、新鮮な野菜や果物、お菓子やスイーツを買うことが出来る。一キロ以上ある道路にびっしりと店が軒を連ねている。
元気なおじさんが高知の新鮮な果物を使用したジュースや飲むゼリーを売っていた。試食させて貰うと、ものすごい素材の味がして美味しかった。私達は文旦やぶどうのジュースやゼリーを買った。『宣伝しといて!宣伝しといて!』と言われて、ブログやSNSにも載せて良いと言われたので載せさせて貰います。
おじさんのお店のサイトはこちら
http://tosameisan.com/index.htm

次に日曜市の名物『いも天』を買いに行く。二年前は運悪く出店していなくて買い逃したのでいよいよ食べられることにワクワクした。袋に4つだか5つだかコロッとしたいものてんぷらが入って250円。たかがサツマイモと侮るなかれ、ものすごいホクホクでトロッとしていて、それでいて甘くてめちゃくちゃ美味しいのだ。私は帰宅後、ホットケーキミックスとサツマイモで自作してみたが、残念ながら、高知のあの味とは程遠いものだった。後から、いも天粉も売っていると知り、買って帰らなかったことを後悔した。

次は高知の偉人研究の第一人者とも言うべき松岡司先生への取材である。

緊張と気の重さがどんよりと襲う。こんなえらい人にペーペーの漫画描きがノコノコとお話を聞きに行き、どんな反応をされるのかわからない。おまけに私の単行本までお渡しする事になっている。真剣に武市半平太の研究をされている方に武市半平太がタイムスリップしてくる変な漫画を渡すなんて、こんなに滑稽な事もない。
しかし、取材の申し入れをしたのもお宅まで伺いたいと申し入れたのもこちらなのだ。しかも仕切り役の担当編集の声が出ないと来ている。なにもかも松岡先生に申し訳ない気持ちになりつつ、タクシーでお宅まで伺う。

歴史家・松岡先生宅は想像に反して、草花のアーチが玄関先まで続いている非常にメルヘンなお家だった。ごめんくださいと何度か声を掛けると、奥様が登場し、アポの旨をお伝えする。すると奥様は「まもちゃーん!お客さんきたよ~!」と声を張り上げた。
「まもちゃん」という呼び名に我々は「セーラームーン?!」などと過剰に反応したが、じっと耐え、そのまま応接間にお通し頂いた。その応接間もレースのかわいらしいカーテンが室内を覆い、綺麗な花や飾りが付いた花籠や少女ちっくなアンティーク風のラックなどに囲まれた、これまたメルヘンな素敵なお部屋だった。すべて奥様のご趣味だという。
まもなく松岡先生がやってきた。お顔は著作のお写真などで拝見していたが、お年の割りに非常に肌がツヤッツヤで体格が良く、若々しく、おまけに劇画調に書かれた武市半平太Tシャツをお召しになっていた。没後150年記念で作られた特別Tシャツらしい。とにかく全身から武市半平太への愛が伝わってくる。

担当さんの筆談やカッスカスの声での質問も先生は根気良く聞き取り、お答え下さった。貴重な資料も何点も見せてくださり、今現在先生が読売新聞で連載している『半平太物語』のコピーなども下さった。
松岡先生の友人であり、先生に影響され、坂本龍馬・武市半平太ら勤王の志士の研究読本を海外で執筆している米国人歴史家などもいる様で、米国の方に『攘夷』『勤王』と言った思想が伝わるのかと疑問を持ったが、「国を守る為に外敵を排除したい」という思いはどの国も共通するだろうな、と考えるに至った。
私は英語に弱いので、見せて頂いた米国人歴史家の分厚い著作を1ページも理解できないだろうが、いつか松岡先生を通して、日本の幕末の志士にどのような印象を持ったのか是非伺ってみたいと思った。
ここでお話した事に関しては拙作の中に取り入れたいので割愛するが、松岡先生の武市半平太及び、高知の偉人への敬愛と言うものは凄いものだった。丹念に隅々まで調べ上げ、書簡を自ら解読し、ひとつの誤りも無く世に公表しようという姿勢に、感動すると共に、コレほどまでに幕末の偉人に人生を捧げられる先生の生き方に憧れを持った。
結局4時間ほどお邪魔してしまい、お土産にお庭で採れたすだちまで頂き、私達は松岡邸を後にした。ここでも担当さんは「カスカスの声の所為で聞きたいことの半分も聞けなかった」と言っていた。
もう放っておいた。

土佐料理▲土佐料理 土佐料理▲土佐料理

夜はもう一度ひろめ市場にチャレンジしようと言う話になったが、日曜なので昨日と似たり寄ったりの混み具合だとタクシーの運転手さんに諭され、やめておいた。代わりにこれまた土佐料理の名店に食べに行くことになった。メニューは昨日とさほど変わらず、相変わらずカツオ料理、鯨料理、その他海産物中心だったが、店によって味も赴きも異なり、非常に美味しかった。

しかし高知と言うと(隅々まで見たわけではないが第一印象として)本当にカツオ推しが半端ない。
私は大阪の下町生まれ下町育ちだが、高知のカツオほどたこ焼きやらお好み焼きやらは推してないと思う。ユルキゃラも別段たこ焼きマンだのがいるわけではないが、高知はそのままダイレクトに『カツオ人間』なのだ。高知の人々はカツオに飽きたら何を食べるんだろう、などと余計なお世話な事を考え、ホテルへと帰路に着いた。
また三翠園に行き、今日こそじっくりと山内家の殿様の私邸があった所の温泉に入っているのだ、という気分に浸ろうと思った。

TOP